はじめに

2004年8月18日
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【会報】
小児アトピー性皮膚炎治療剤タクロリムス外用薬
(プロトピック軟膏0.03%小児用)の適正使用に関する共同見解
        日本小児アレルギー学会・日本皮膚アレルギー学会 
合同タクロリムス外用薬委員会           
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 最近の厚生労働省の疫学調査によれば、小児のおよそ10%がアトピー性皮膚炎に罹患している【1】。その治療は、正しい診断と重症度の評価が行われた上で、なされるべきである【2-4】。治療の基本は、1)原因・悪化因子の検索と対策、2)スキンケア(異常な皮膚機能の補正)、3)薬物療法で、それらは同等に重要である【4】。また、患者には治療に関する情報を十分に伝えて、患者あるいは家族との間に共通の理解と信頼を構築することが大切である。

 本症の薬物療法としては、対症療法が主体となり、症状の抑制には原則としてステロイド外用薬が用いられる。ステロイド外用薬は、専門医の指導のもとに適正に使用されれば、きわめて有用で安全な治療手段である。ステロイド外用薬に準ずるものとしてタクロリムス外用薬がある【3,5】。タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏0.1%®)は、1999年から16歳以上のアトピー性皮膚炎患者に用いられ、特に顔面・頚部の皮疹に対して高い適応があることが確認されている。しかし、糜爛、潰瘍面には使用できない、薬効の強さには限界がある、強い刺激感を訴えることがある、などステロイド外用薬にはない使用上の制約がある【5】

 2003年12月から小児用タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏0.03%小児用®)の使用が認可された。本剤が厚生労働省薬事・食品衛生審議会に諮られた2003年6月下旬から、小児用タクロリムス外用薬の安全性に対する疑念が、いくつかのメデイアにより報道された。その内容は、動物実験で悪性リンパ腫の増加がみられたこと、及び関連性は明確ではないがヒトにおいても外国で悪性リンパ腫や皮膚癌が発現したこと等が主である。このような報道により、本症の診療現場で混乱が生じ、更にその混乱が拡大する可能性が予測されたため、日本小児アレルギー学会および日本皮膚アレルギー学会は小児用タクロリムス外用薬の適正使用に関する見解を共同で発表することとした。

 見解をまとめるに当たっては、1)小児用タクロリムス外用薬の臨床試験が皮膚科医によって行われたこと、2)日本皮膚科学会は竹原和彦金沢大学教授を中心としてアトピー性皮膚炎治療問題委員会内にタクロリムス外用薬問題ワーキンググループを組織し日本皮膚科学会としての見解を出す作業が終了し公表されたこと【6】、3)アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏0.1%および0.03%の使用ガイダンスが発表されたこと【7】等から、日本皮膚科学会と緊密に連携をとることとした。日本小児アレルギー学会および日本皮膚アレルギー学会の担当委員は別表の如くである。両学会は、それぞれ準備的会議を何回か開催した後に、2003年10月24日および2004年5月14日に合同委員会を開催した。

 合同委員会は、マウス実験で悪性リンパ腫の増加がみられたとの報告、及びヒトにおいて悪性リンパ腫や皮膚癌が発現したとの外国の報告(2003年11月現在、世界25カ国で使用されている)について論議を行った。さらに、本邦に於いても皮膚リンパ腫に使用した症例の学会報告【8】があったので、あわせて論議したが、皮膚リンパ腫の誘因としての関連性はないと判断した。そして、タクロリムス軟膏の適正使用を遵守し、添付文書に記載されている警告・禁忌事項等についての注意を十分守り、臨床現場において本薬剤の特徴について十分に一人ひとりの患者に説明をすることなどにより、安全性および有効性は保たれるものとの結論に達した。患者説明のひな型資料のひとつとして、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療問題委員会 タクロリムス外用薬問題ワーキンググループが示した会報【6】があるので参照されたい。

 小児用タクロリムス外用薬の使用にあたっては、1)小児のアトピー性皮膚炎の治療に精通している医師のもとで行うこと、2)マウス塗布がん原性試験において、高い血中濃度の持続に基づくリンパ腫の増加が認められている。また、本剤との関連性は明らかではないが、外国においてリンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用にあたっては、これらの情報を患者、または代諾者に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること、3)潰瘍、明らかに局面を形成している糜爛に使用する場合には、血中濃度が高くなり、腎障害等の副作用が発現する可能性があるので、あらかじめ処置を行い、潰瘍、明らかに局面を形成している糜爛の改善を確認した後、本剤の使用を開始すること(以上の三項目は警告として添付文書に示されている)、などの点を厳守することが求められている。成人用タクロリムス軟膏0.1%の使用にあたっても、2003年9月から同様な警告が添付文書に記載されている【7】

 本剤は、小児のアトピー性皮膚炎に於いて優れた有効性を示しており【7,9,10】、適正な使用により治療効果の向上が期待される。タクロリムス軟膏の特徴について十分に一人ひとりの患者に説明しつつ使用することが、小児のアトピー性皮膚炎の診療に関係する医師の責務であると考える。


 なお、本見解は必要により適宜、追加あるいは修正を加えるものとする。
 ※特に2歳未満の患児には現在は適応がないことに留意する。


文献
【1】 厚生労働科学研究、免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業「アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究」、平成12-14年度総合研究報告書,2003
【2】 川島眞、瀧川雅浩、中川秀己、古江増隆、飯島正文、飯塚一、伊藤雅章、塩原哲夫、竹原和彦、玉置邦彦、宮地良樹、橋本公二、吉川邦彦:日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」、日本皮膚科学会雑誌 110:1099-1104,2000
【3】 古江増隆、古川福実、秀 道広、竹原和彦:日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2004改訂版、日本皮膚科学会雑誌 114:135-142,2004
【4】 厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2002」
http://www.kyudai-derm.org/atopy/atopy.html
【5】 FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏の使用ガイダンス、臨床皮膚科53:1057-1068,1999
【6】 日本皮膚科学会:タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)使用中およびこれから使用される患者さんへ、日本皮膚科学会雑誌113:2080-2083,2003(日本皮膚科学会ホームページ URL http://www.dermatol.or.jpあるいは日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療問題委員会ホームページ URL http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med24/atopy/therapy.htmlからも参照可能)
【7】 FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏0.1%および0.03%の使用ガイダンス、臨床皮膚科57:1217-1234,2003
【8】 今中愛子、後藤章夫、立川豊吏、島津恒敏、佐藤健二:若年者に発症したセザリー症候群の1例、日本皮膚科学会雑誌 114:590,2004
【9】 大槻マミ太郎、川島 眞、柴田義貞、中川秀己、原田昭太郎、FK506軟膏研究会:FK506(タクロリムス)軟膏の小児におけるアトピー性皮膚炎に対する第III相試験ー軟膏基剤を対照とした二重盲検群間比較試験、臨床医薬 19:569-595,2003
【10】 川島 眞、大槻マミ太郎、柴田義貞、原田昭太郎、中川秀己、FK506軟膏研究会:FK506(タクロリムス)軟膏の小児アトピー性皮膚炎患者に対する長期観察試験、臨床医薬 19:597-636,2003


   
日本小児アレルギー学会・日本皮膚アレルギー学会
合同タクロリムス外用薬委員会
日本小児アレルギー学会
西間 三馨(国立病院機構 福岡病院)
岩田  力(東京大学大学院医学系研究科小児科)
宇理須厚雄(藤田保健衛生大学医学部小児科)
栗原和幸(神奈川県立こども医療センターアレルギー科)
河野 陽一(千葉大学大学院医学研究院小児科)
古川  漸(山口大学医学部小児科)
眞弓 光文(福井大学医学部小児科)
森川 昭廣(群馬大学大学院医学系研究科小児科)
日本皮膚アレルギー学会
古川福実(和歌山県立医科大学医学部皮膚科)
片山一朗(大阪大学大学院医学系研究科皮膚科)
川島 眞(東京女子医科大学医学部皮膚科)
塩原哲夫(杏林大学医学部皮膚科)
竹原和彦(金沢大学大学院医学系研究科皮膚科)
中川秀己(東京慈恵会医科大学皮膚科)
秀 道広(広島大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科)
古江増隆(九州大学大学院医学研究院皮膚科)
松永佳世子(藤田保健衛生大学医学部皮膚科)
(一部の委員の所属は略称とした)
   
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