=河豚の鰭酒=
一雨降ったら鳥肌が立つほどの肌寒さ。秋きたりなば冬近しだね、それにしても、嫌だね、寒いのは。蒲団からでたく ないよ。まあ今日が休みだからいいようなものだけど。もう一寝入り、といきたいところだけど、腹が空いてどうにもならねいや。こんな時は一人身の侘しさが身に沁むね。その点松兄ィは羨ましいいや、なにせ好いて好かれた恋女房なんだからなあ。今日は仕事が休みだってんで、今頃朝寝を決め込んでるよ。とんとんと包丁の音が勝手から聞こえてくるよ。それと味噌汁のいい匂いだ。おまいさん、御飯だよ。おれは今日は寒いから食いたくねえ。そんな子供じみたこと言ってないで、熱いうちにお上がりな。寒いんだよ。しかたがないねぇ、じゃあ、ここにもってくるから。おう、すまねえなあ。なんだい、ま だ食べないのかい。手をだしゃ、手が冷るじゃねえか。本当にしかたがないよ、ほらあーんして。あーん。本当にちくしょうめ!
なにやってんだい、熊。
わっぁびっくりした。
こっちがびっくりしたよ、さっきから見ていれば、一人でぶつぶつ言ってるかと思えば、大口を開けたり、突然大声を張り上げたりして。
えへ、見てました。それより、松兄ィ朝っぱからなんです、それにその顔どうしたんで?
まあちょっとな。小梅のやろうがな。
小梅のやろうにひっかかれたんですかい?
お前が、小梅のやろうと言うことはねいや。
えへへ、犬も食わないてぇやつですね。
お前、嬉しそうに言うない。気がむしゃくしゃするから、酒屋をたたき起こして一升どこ買ってきた。朝っぱからだけどつきあってくれねぇか?
嬉しいね。朝だろうが、夜だろうが、雨が降ろうが、槍が降ろうが関係ねいや。だけど、なんにもねいや。塩もねぇ。
おまえんとこは本当にないね。独りモンはウジが湧くって言うけれど、こんなんじゃ、独りモンの干物が出来るよ。そんなこともあろうかと、いいもん買ってきたよ。
なんです、そのがさっとしたのは?
ふぐのヒレを乾かしたもんだ。
そいつを肴にするんで?
これをな、こう火で丹念にあぶって、熱燗を注ぐんだ。
香ばしい匂ですねぇ。普通の熱燗もいいけれど、これはこれで乙なもんですね。何より肴がいらねぇ。
by BigBrother
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