ぼくのオンリィ・イエスタディ その33
荒井由実から松任谷由実へ 1999.11.3


昨晩お会いしましょう 松任谷由実 荒井由実が松任谷由実になったのは70年代の終わりだったでしょうか?はっきりしたことは分かりませんが、新しい姓になってからも、ぼくの中では以前として歌手荒井由実でした。その曲は他の歌手とは一線を画したいわゆる「ユーミンブランド」とも言える世界をかたちづくっていました。
 繊細さな言葉と瑞々しい歌声は、若い時だけに訪れるような霊感に満ちていました。今でも、「ベルベット・イースター」や「翳りゆく部屋」を聴くたびにその思いは深まります。
 80年代の松任谷由実の八面六臂の活躍ぶりは、以前にもましてはなやかでした。アルバムがビックセールスなのはもちろんのこと、呉田軽穂の名で詩を有名アイドルに提供するなど、群を抜いていました。
 ただぼくには、その曲のすべてが、まるで江戸職人のように、きっちり計算されて、仕上げられているような気がしてなりませんでした。荒井由実の時代の曲の多くは本人の実感から創られた等身大の曲という印象がありましたが、松任谷由実になるとどこか作り物めいたところがありました。もちろんそれはそれで素晴らしいものだと思いますが。
 「ボイジャー」や「シンデレラ・エクスプレス」など世の中の動向や出来事などを積極的に曲に摂り入れていました。本当かどうか知りませんが、そのために何人かのスタッフに流行をリサーチさせているなんてことも耳にしました。ですが、ぼくにとって松任谷由実は荒井由実で終わった歌手で、興味も荒井由実の時ほどありませんでした。
 ぼくが松任谷由実の曲もいいなと思ったのは、「昨晩お会いしましょう」を聴いたからです。これは就職活動で面接の待合わせの長い時間を潰すために、ふらりと立ち寄った本屋のBGMとして流されていました。この作品全体に流れるどこか暗い陰りが心に沁みました。
 ぼくはこの年すべての会社に振られ、以後今日に至るまで、定職をもたずふらふらとしていますがね。そのころ、もちろん今でも、ぼくの心は明後日の見当違いな方向を向いてしまっているようです。

by BigBrother

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