江戸川乱歩「パノラマ島奇談」角川文庫 2000.10.23

「パノラマ島奇談」   最近のマイ・ブームの一つが、江戸川乱歩です。中学生の頃少年物をいくつか呼んだきりで、長らく興味のなかった作家でしたが、昨年から長編をぽつりポツリと読むようになり、ここに来てはまってしまいました。
 中学生以来の江戸川乱歩のイメージはおどろおどろしい探偵小説、面白いけれど、品の悪い読み物を書いた人物であり、明智小五郎という、日本でもっとも有名な名探偵の生みの親という先入観が強く、明智小五郎が登場しない小説はつまらないだろうとはなから決めてかかっていました。
 もちろん、とんでもない間違いです。「二銭銅貨」「人間椅子」「押絵と旅する男」など明智小五郎の活躍がなくても、すばらしい作品は数々あります。
 「パノラマ島奇談」は、結末に登場してくる探偵を北見小五郎といい、明智小五郎を容易に連想させるのですが、しかし、この小説の主人公はあくまでも、「人見広介という書生ともごろつきともつかぬ、そのくせ年輩は三十をよほどすぎていそうな、不思議な男」です。この主人公が犯罪へと傾斜して行く心理と行動を、乱歩は大きな渦に巻き込まれる小船のように描いていきます。人見広介がついに大罪を犯してしまう場面からは恐怖、壮絶、怪奇、淫蕩、狂気、甘美、猟奇、幻想の精髄が香気となって立ち上ってきます。
 角川文庫の「パノラマ島奇談」の表紙はこの雰囲気をよく伝えていますね。

by BigBrother  

 [TopPage] [New] [BigBrother's Room] [Book]