福島次郎「三島由紀夫ー剣と寒紅」文芸春秋
2000.10.25
この著書がセンセイショナルな謳い文句とともに店頭に並んだ際には、手にとるまでもないと通りすぎてしまいました。しかし、この著書にたいする三島由紀夫の遺族からの出版差し止めの申請が裁判所に認められ、出版社がこの著書を書店から引き上げたことから、俄然読みたくなりました。まったく、野次馬根性の自分に呆れるばかりです。
なんと言っても事実に興味がかきたてられます。著者は昭和26年に4ヶ月ほど、昭和37年の春の一日、昭和41年の夏の5日間、同年の暮れの一日を三島由紀夫と直接に会っているわけです。これらは「第二章 真夏の破局」、「第三章『奔馬』への旅」、「第四章 折れた帆柱」でそれぞれとりあげられています。
昭和26年当時と、15年隔てた昭和41年の三島由紀夫の姿の対比が私には面白かったですね。特に、「豊饒の海」の取材旅行でもあった著者の故郷への旅での三島由紀夫の描写は、この著書の中で三島由紀夫の一面をもっともよく伝えているのではないかと思いました。
とはいうものの、この著書がフィクションともノンフィクションともつかない、中途半端な作品だという印象は拭いきれません。
天地を動かし鬼神をも涙させるべき小説という装置が完全に作動していないと感じてしまいますし、事実が無にされるぎりぎりまで分析され、描き極められていないという印象を受けてします。極上の材料を使った贅沢なソースが完成の途上で舌にひっかかるもどかしさを感じてしまいます。
著者自ら赤裸々に自身の過去を語っているようでいながら、三島由紀夫に対する関係において、自らのことについて肝心ななにかを秘しているように思えてならないのは、私の読みが至らないからでしょうか。
とにかく、思っていた以上に面白かったですね。
by BigBrother
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