星新一「祖父・小金井良精の記」河出書房新社 2001.4.13

「祖父・小金井良精の記」  1998年に亡くなられた星新一さんの作品。単行本で451ページとなかなか大部なのですが、ショート・ショートの手法で鳴らした作家らしく、さまざまなエピソードを積み重ねて小金井良精という人物を浮き上がらせていきます。
 本人の著書、論文、日記はもちろんのこと、肉親の日記、肉親の文章(妻の喜美子は森鴎外の妹で文筆家でもあったし、鴎外の息子、森於菟は随筆家であり、小金井良精の教え子でもある。もちろん鴎外も)や友人や弟子たちの思い出を引用したり、著名作家を引用したりしています。
 しかし、けっして全体の調子を乱すことがありません。地味でいながら、余韻の残る文章です。
 年代は時にわずかな後退を見せジグザグに進むのですが、これがかえって効果的な印象となっています。もちろん、これは作者の星新一氏が狙った所でもあります。
 ところで、星新一氏は著述の基本姿勢を著書の最初の6分の1ほどのところで次のように述べて言ます。

    日記(祖父・小金井良精の日記ということ)を通読してみて、物語と人生との差がよく分かった。物語には適当なクライマックスがあり、適当な区切りがある。一つ一つの事件が片付いてから、つぎの事件がはじまってくれる。しかし、人生はそうでない。さまざまなことがらが、主人公の身において、いくつも同時進行しているのである。中略。いっそのこと、各エピソードに分割し、それを集積し構成する方法をとったらどうだろう。中略。事実を重んじ、フィクションを排除する。中略。題名もきまった。「祖父・小金井良精の記」である。誰が書いた記なのか、その主語がぼやけていていい。つまり、祖父でもあり、私でもあるのだ。

 実は、この小金井良精は長岡の出身です。その母は米百俵で有名な小林虎三郎の妹です。さらに、河井継之助は小林家の親類で、そのエピソードも印象深く描かれています。
 郷土に関係深い人物ですのでいっそう興味を持って読めました。長岡の人には感慨深く、そうでない人にとっても小金井良精の人生は興味深いはずです。

    小金井良精(1859-1944)
     解剖学者・人類学者。草創期の日本医学界に指導的役割を果たした。
     新潟県長岡に生まれ、東京大学卒業後、ドイツに留学、目の解剖・発生学などを研究した。1886年東京大学教授となり、日本人としてはじめて解剖学会を創設、その発展に努める一方、人類学にも力を注ぎ、特にアイヌ研究は生体と骨格の両方面から豊富な材料について行われ、その業績は世界的な賞賛を得た。また生涯、日本の石器時代の人骨の研究を続けた。(学研原色現代新百科事典より)


by BigBrother  

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