江戸川乱歩「化人幻戯」角川書店 2001.5.17

「化人幻戯」  かりに江戸川乱歩を知らない人がいるとしても、明智小五郎の名を聞いたことがない人はいないでしょう。もっとも、近頃では土曜サスペンス劇場にめっきり登場しなくなったので、一頃より馴染が薄くなったかもしれません。
 「けにんげんぎ」と読みます。「D坂の殺人事件」の初見参以来、数々の事件を解決した変装の名人にも老いが忍び寄っています。その風貌は以下の通りです。
 

     明智は五十歳になっていたが、肥りもしないで、昔のままの痩せ型のキリッとした顔をしていた。明るいところでよく見ると、凹凸のくっきりとした顔に、細かいしわができていたし、こめかみから頬のあたりに、褐色の小さいシミが、いくつも出ていたが、それがかえって彼の理知的な魅力を増すアクセサリの作用をした。

 今回の犯人はこれまでの犯人たちとはまったく異なっていると、この名探偵は告白します。犯人を今まで通り推理できるが、犯人の心理はもはや窺い知ることができない、理解を超えているのだとされます。
 これはもしも今後も明智小五郎が登場するとしたら、時計仕掛けの神の役を振り分けらて、謎解きの口上を述べるに過ぎなくなることを暗示していたのかもしれません。
 類まれなるキャラクターとして、多くの犯罪者と心理戦の活劇を繰り広げてきた明智小五郎もようやくその任を終えたのでしょうか。名優は「化人幻戯」を境にさりげなく歩み去って行ったような気がします。

by BigBrother  

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