ラーメン店 I に見る長岡繁盛店の条件の考察 2003.6.30/font>

 五年目を迎えるラーメン店Iは店舗を移した。
 Iはとんこつで一躍人気店となった。お客が押し寄せるようになったIは、ただでさえこじんまりした店内だったので、立ち待ちの客が一人二人いるだけで、心理的な圧迫感を覚えるほどだった。
 さらに、混雑時にはかなりの数の路上駐車ができてしまい、近くのコンビニの駐車場を借りているという事態であったから、駐車場の確保も移転の大きな理由の一つであったようだ。
 いずれにせよ、商売が順調とはいいことである。
 さて、このIが長岡で有名店になった理由は何か?を考察するのが、以下の目的である。
 ラーメン店の開業は他の商売に比して敷居が低いといわれる。しかし、甘い考えは早々に打ち砕かれる。5年で5割が脱落し、成功するのは極少数とされるが、長岡でのラーメン店の開業と閉店を見ていると、1年から1年半でその多くが閉店してゆくようだ。
 それにもかかわらず、いまだにラーメン店開業の熱が高いのはあたればでかいからだし、何よりもその原理はきわめて単純、旨いラーメンを作ればいいからだ。
 ただ、旨いラーメンという場合、ラーメンが結局は主観的な味に関わる商品であるから、但し書きが必要となる。つまりその旨いということとは、その営業をする地域での比較的多くの客層に旨いと思われるラーメンであることなのである。
 東京で流行っている味だとか、横浜でもてはやされているとか、極論すれば、自分がどんなに旨いと感じようが、その土地で多くの客層に支持されなければ、まずいラーメンなのである。
 ラーメンは食という人間にとって生きていく上でかけがえのない行為に深く関わってっている。この側面を重要視するのは当然だが、一方でラーメンは商品としての側面を持ち合わせている。結局食に対する信念やラーメンに対する知識もさることながら、商品がどうすれば売れるかの原則を無視して、ラーメンを作っているようでは、自ら険しい道を行き、途中遭難という最悪な事態に陥らないとも限らない。
 ラーメン店経営も他の事業同様一般的な成功パターンが存在し、これを大きく逸脱するような店舗経営は成功しないと予想される。それだからこそ、フランチャイズ方式がこれまた商売として成り立っているわけだ。そして、この人気店になるための必須条件はすでに常識として広まっている。したがって、この考察の大半は人気店となったくだんのIが、いかに周知の常識を実行していたのか、そしてそれは有効だったのか否かを検証することになるであろう。

  ◎立地条件
 Iは郊外に位置する。しかし、長岡という中規模の地方都市にあってはオフィス街とか住宅街で区別するよりも、昼はサラリーマン、夜は家族が来店しやすいような場所で開店するのが望ましいであろう。Iの所在地はこれを満たしている。

  ◎競合する他店舗
 近辺の競合店は長岡で既に不動の地位を築いたAや三条燕方面ではおなじみのラーメンのJが存在する。しかし近辺といっても、Aは程よい距離を保っているし、Jの背アブラたっぷりの極太メンのラーメンも客層がやや限定されているから、競合する他店舗とはそれなりの棲み分け可能な位置にあると言えよう。

  ◎店舗について
外見
 可もなく不可もなく。どちらかといえばこじんまりして趣味がよいといえる。
店内
 明るいく、清潔感溢れた店内。開店ははっきり禁煙を謳っていなかったが、灰皿は置いていなかった。現在はあらかじめ了解してもらえるように、入り口脇に店内禁煙を知らせている。
 以前あったテレビは現在なくなり、落ち着いたBGMが流れている。
西岸良平さんの「夕焼の詩」(雑誌連載中)が最新刊まで揃っているなど、なかなか充実している。本は本棚にきちんと整理されている。本もそうだが、客が引き上げた後の片付けは素早い。
以上店舗の外見・店内について清潔であり、整理整頓の徹底しているという印象を受ける。総体的に長岡では雰囲気という点では好ましく、上位にランクされる。

  ◎サービス
店内禁煙
タバコを吸わない私にはこれほどありがたいサービスはない。大体、こっちが食事している目のまで、平気でタバコの煙を吹きかける馬鹿がいるのが信じられない。
お冷から麦茶へ
 開店当初はお冷だった。いつからか麦茶に切り替わった。この冷たい麦茶のサービスは冷水よりも一手間かかっていることが伺える。、それはそれで好ましいが、ラーメンを食べ終わった後に関しては冷たいおいしい水を飲みたいと思う。
 ピリ沢。
 開店当初からのサービス。唐辛子で漬け込んだ小口切りの大根で、ストレートな辛味と塩主体の味つけで、カウンターやテーブルにしゃれた瀬戸物に入れられて置かれている。
 アイスキャンディー
 食後にアイスキャンディーのサービスがある。これも開店当初はなかった。子ども連れはもちろん、甘党にとっても心憎いサービスである。
接客
通常のやたら威勢のいいラーメン店に比べれば、活気がないと感じるお客もいようが、接客に関してはきちんとなされており、ややもすればうるさい掛け声のかかるラーメン店よりも、落ち着いた雰囲気が好ましい。
 店主も従業員も頭巾とユニフォームを着用し、衛生面においても、また一致団結して店をやっていくという気構えが見える。接客はもちろん、雰囲気の向上に一役買っている。 注文は迅速、この手のラーメン店としては注文から手際よくラーメンが出てくる。

  ◎商品としてのラーメン(現在)
現在のラーメンは基本としては醤油、塩、とんこつの三種類。値段は600円、チャーシュー麺はそれぞれ800円で、金額は統一されている。他にワンタン、岩のり、煮卵などのトッピングがある。麺の太さは中くらい。長岡では最も妥当な麺だと思う。

  ◎商品としてのラーメン(過去)
 開店当初はチャーシュー麺は800円でなかったように記憶しているし、金額も一律ではなかったような気がする。
ラーメンの具や味も開店当初とは変わった。
現在トッピングになったワンタンはワンタンメンとして、独立したメニューだった。
ラーメンの具ではチャ―シューが現在はブタバラのみだが、ブタバラとロースの2種類あり、選択できたが、現在はブタバラのみ。
4分の一のほどに切れらた煮卵の具が現在はない。
塩ラーメンは以前緑色の麺であった。そもそも、この塩ラーメンは一変した。
醤油ラーメンの風味も一変。「焼きアジ」を使用しているとのことだが、風味というか匂いが塩ラーメンと煮かよりすぎているように感じられる。塩ラーメンは「焼きアゴ」を主体としているそうだが、風味・匂いということでは差は感じられない。塩ラーメンでは食欲を大いに誘った香ばしさだが、醤油ラーメンではさほどに思わなかった。もちろん、これは個人差が大いにあるだろうが。だが、せっかく三種類のラーメンなのだから、醤油は醤油の風味を生かした他の2種類とは異なるものをと思うのは私だけだろうか。

  ◎客の需要に応える商品としてラーメン
旨いラーメンを作るということが客の需要に応えることである。しかし、自分の好みの味が、すぐさま客に喜ばれる味とは、限らない。当たり前のことであるが、これがわからない、あるいは認めようとしないラーメン店主が存在する。特に、ラーメンフリークが嵩じてラーメン店主になった人に多いように思われる。こういう人にとって厄介なのは、なまじ知識があることだ。したがって、プライドも高い。おれの味が分からない奴はだめだという考えに傾いてしまいがちなのだ。自分の味と多くの好むところの味とがどんぴしゃりと一致すれば、驚くほどの繁盛点になる可能性があるのだが、微妙にずれると目も当てられない結果を招きかねない。
 さて、I店に関しては、開店当初の力の入れようをみて、主力商品は醤油ラーメンだったと推定される。長岡で人気のラーメンはショウガの聞いた濃い口醤油ダレのスープと背アブラの浮いた煮干の効いた醤油ダレのスープだ。これは今でも変わらない。Iはあえて、この二者とは異なる醤油スープを選択した。これは店主に勝算があってのことだと考えられるが、一方でこのラーメンのみに拘らなかったのは結果的に大正解であった。
 脱サラでラーメンを新規開店した際、ラーメンの種類は増やさないほうがいい、むしろ、増やすな!という忠告がある。これは、さほど技量のない脱サラ店主があれこれ未熟で中途半端なラーメンを出すより、醤油なら醤油ユと一本に絞ってうまいラーメンを出すほうが大成するという考えからだ。確かにこれは一里真実である。しかも、長岡には青島をはじめ、あおきや、拉麺亭など、一種類のラーメンだけでこれまで大繁盛をしてきたという例さえあるのだ。
 しかし、長らく、しょうがの効いた濃い醤油のラーメン一本でやってこれたという事実はこのラーメンの味覚が長岡という地域に圧倒的に受け入れられたということを示す以外の何者でもないことを物語るのではないか。だとしたら、醤油ラーメンという土俵での勝負はよほど優れた対抗馬を出さない限りは、勝利はおぼつかないのでは?という惧れがある。これも常識化していることだが、個性・特徴のない味では、競争が激しいラーメン店の中にあって差別化をはかることができず、早晩つぶれかねないからである。
 今にして思えば、Iは二つの戦略をとったと考えられる。

  ◎「手作り」をキーワードにした差別化
 Iにおいて手作りとはあらゆる面において手を抜かないということである。Iが強調していることを例にとれば、自家製の手作りチャーシューを注文を受けてから、包丁で切り分けることであり、スープを手間をかけずに化学調味料でしあげるようなことを決してしないことなのである。この「手作り」という考えのもと、長岡の他のラーメン店と差別化をはかろうとしたと思われる。

  ◎長岡のラーメン人口の嗜好の把握
 もう一つの戦略は主力商品を醤油ラーメンと定めつつも、バラエティに富んだ商品を同時に提供することで、長岡という地域がどのようなラーメンに対してどのような需要を持っているのかを把握したことにある。それは、とんこつラーメン、塩ラーメン、ワンタンメンというこの手のラーメン店にしては四品目のラーメンをそろえ、塩ラーメンに至っては麺を他と変えるということまでしたところに見て取れよう。
 ワンタンメンに関してはIの店にあって、今ひとつ工夫がないように思えたが、トンコツ、塩、醤油はそれぞれどれもが並々ならぬ力の入れようであり、現在でも大変だと思うが、開店当初においてはこれらのスープ作りに、それこそ神経をすり減らすほど気を使ったであろうと想像される。
 これらの戦略は的中し、Iの手をぬかずに丁寧に作るとんこつラーメンは評判を呼び、多くの客をひきつけるに至った。つまり、Iのとんこつラーメンが多くの客の嗜好にマッチしたわけである。

  ◎繁盛後
 とんこつが大いに評判になり、繁盛店となった後、Iは暫時メニューの見直しと味のラーメンの改良を行った。これも商品改良として当然のことである。ただ、とんこつに関しては白ごまから、黒ごまに変わったことに対し、前の方が好みとする意見もけっこうあるようだ。
 驚くのは、塩ラーメンが一変したことである。これに関して、新商品開発ということでは大成功だと思われる。
 こうした商品改良、新商品の開発の一方で、チャーシューをブタバラの一本化、ワンタンメンのワンタンのトッピング化、ぎょうざの廃止(メニューにはなし)を行った。  サービスについては既述。

  ◎全体の感想
 ラーメン店Iはラーメン店が繁盛するために必要なことはすべて行っていると思われる。つまり、それは一般に商売が流行るための原則を忠実に行っているということである。人気店になったのは旨いラーメンを出したということもさることながら、ラーメンが商品であり、この商品をいかにして消費者にアピールするかのについて自覚があったと思われる。
 ラーメンがラーメン店で提供される商品である以上、店の雰囲気、接客、オープンキッチンであればラーメンを作る手際を考慮しなければならないのはもちろん、商品自体のラーメンの品質管理を含めたそれぞれの具、麺、スープはもちろん、さらにはスープの温度、商品の容器としてのどんぶりにも注意を払う必要があると思われる。ラーメンを商品と見たら、どんぶりにも目が向くのは当然だが、ラーメンを食べ物の観点だけで捉えるなら、見逃されがちではないだろうか。
 ところで、人気店となったI店だが、醤油ラーメンに関しては長岡の客の心を今ひとつ捉えきれていないのではないかと私には思われる。やはり、青島系統のラーメンを抑えて、トップに踊る出ることは、I店に限らず、相当な努力を必要とするだろう。  I店の現在の醤油ラーメンがどんなかは前述したとおりだ。スープは「焼きアジ」を使い個性的となったが、青島系統のスープに慣れ親しんだ長岡の人の口にはたして合うのだろうか。とにもかくにも、I店の果敢な挑戦には頭が下がる。私にはI店が長岡では最もラーメンを商品と自覚しつつも、限りなくラーメンを愛する店だと思えるのである。今後もIには、長岡の人の味覚の動向にアンテナを張り巡らしつつ、独自の道を切り開いていってもらいたい。


 6月27日新店舗での開店である。スペースは今までの2倍であろうか。天井が高く、席もゆったりしている。ぐっと落ち着いた店内になった。
 12時ちょっとすぎに行ったら、案の定混んでいた。ちょっと並んだが、運良くすぐに席につけた。しかし、それから15分ほど待たねばならなかった。こうしたときにマンガでも、やや!以前はあんなに充実していたマンガがない!どうしてだろうか?!移転を機になくしたのだろうか。満員なのは喜ばしいことだが、こうした混雑の折はやっぱり手持ち無沙汰を慰めてくれるマンガがほしい。
 いずれにせよ、Iは長岡でラーメンというワンダーランドを今後も大いに活気付けてくれるであろう。

   

by BigBrother

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