勝小吉「夢酔独言」東洋文庫
2003.10.12
かなり前のことですが、NHKラジオで朗読の時間という番組がすべての放送の終わる直前にあり、よく聴いていたものです。今でも思い出すのが、宮沢賢治の「月夜のけだもの」でアナウンサーが「へびのめのかさ」と言ったことです。コレは「蛇の目の傘」を読み間違ったのでしょう。そうそう最近も、といっても3ヶ月ほど前になるでしょうか、気象予報の終わる直前に、アナウンサーがすっかり安心してしまって、うっかりスイッチを切らないまま、素っ頓狂な奇声を発してしまったのを聴きました。その翌日の気象予報の終りに、当のアナウンサーがお詫びをしていました。これには二日連続で、大いに笑わせていただきました。それはさておき、今でも忘れがたいのは「夢酔独言」です。当時ナレーションでよく耳にした、中年の落ち着いた渋い声の持ち主によって語られました。
一頃坂口安吾の熱心な読者だった私は当然「夢酔独言」について知っていたのですが、内容にぴったりと嵌ったナレーションはまるで勝小吉本人が語っているような絶妙なもので、翌日が待ち遠しかったものです。その内容は安吾の紹介するところになんら誇張もく痛快無比のおもしろさでした。
この「夢酔独言」の勝小吉は勝海舟の父です。勝海舟も坂口安吾にとってお気に入りらしく、自らの小説にも登場させていますね。
勝小吉は幕末の貧乏旗本で、その破天荒な生き様は坂口安吾はじめ多くの作家たちの注目するところとなりました。
東洋文庫の懇切ていねいな解説には、こうした勝小吉の生き様には幕末の社会の矛盾や変動が影響していたことが述べられ、はからずも幕末世相史を理解する上で大いに助けになることが述べられています。
現在の日本は勝小吉の頃の日本と同様に、分岐点にさしかかっているように思えます。夢酔こと勝小吉はペリー来航の3年前に没してしまいますが、その後の空前の大変革の生き証人となるのは勝海舟です。幸か不幸か勝海舟は新しい時代に立ち会えましたが、いまだに先の見えない閉塞状況に置かれていた勝小吉が物語るこの「夢酔独言」にはじれったい想いを何とか突き破ろうと、必死にもがく真剣さというか、無謀さがあります。朗読の時間で聞いた頃よりも、「夢酔独言」が現在ずっと身近に感じられるのも、閉塞した現状に知らずに押しながされている我が身につまされるからされるからなのでしょう。
ところで、現代の日本で明治維新のような大変革ははたして起きるのでしょうか。もしかすると、それとは気づかずに大変化の中にいるのかもしれません。
by BigBrother
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