「こりずにまたまたまた酒の肴考」
1997.7.18
油蝉が鳴いています。梅雨ですが、今日は朝から蒸します。じっとしていても汗ばみます。曇ってはいますが、まだ日も高いのにビールが呑みたくなります。たっぷり汗をかいた後のよく冷えた一杯のビールは何とも言えない美味さです。ただ量を過ごすと、かえて滂沱たる汗を流すことになってしまいますが・・・・。
通常ではビールの呑みごろの温度は12度前後とされています。冷えすぎたビールはその芳醇な風味が感じられなくなり、ただの冷たい飲物に過ぎなくなってしまいます。もちろん、冷えすぎたビールでも美味いと感じるとすれば、それはそれでいいのではないかと一方で思います。いろいろ味わった後で最終的には自分の味覚に正直であることはやはり、いいことではないかと思うのです。
冷えたビールということで思いだすのは、故横山やすしさんのことです。一流の芸人として華やかな一時代を築き上げたことからすれば、その晩年と死ははあまりに不遇に感じられてなりません。その最晩年に、写真週刊誌がこの不世出の芸人を取材に行きました。その際にスタッフはビールを土産に携えていき、やすしさんはさっそくスタッフと自分にコップを用意して注いでくれたそうです。しかし、取材を終えたスタッフが引き上げる際、あれほど好きで目のなかった酒にほとんど手を触れていなかったそうです。
横山さんの追悼番組に出演したかっての相い方の西川きよしさんが彼の死を早めた酒について語っていました。横山さんが酒、しかも冷えすぎるほどに冷やしたビールを呑んでいたことが、彼の健康を著しく損なったのだ、と西川さんは考えているようでした。西川さんは「あんなちんちんに冷えたビールをのんどったら、からだを悪うするわ」と大きな目にうっすらと涙を浮かべて語っていました。やすしさんはビールに限らず水割りでも何でもこれでもかというまでに冷たくすることをを好んだそうです。
確かに、市販のビールのぬるくなったのの中にはどうしてあんなにまずいのだろうか思わせるものがあります。それは哲学的省察に導く驚きを与えるほどです。よく冷やしていないと不快な匂いが立ってきそうです。こういうこともあって我々日本人はビールはぜひとも冷やして呑むものと決めつけがちなのではないでしょうか。
しかし、世界のあまたのビールの中には冷やさず室温(むろん涼しいところに置いてあるのでしょが)で呑むものがあります。色は黒っぽく、濃厚な味わいです。かってビールが「呑むパン」と言われていたことを思い起させます。匂いも決して悪くなく、それどころか馥郁たる香りさえします。ただ、私は二、三杯とこのぬるいビールのグラスを重ねる気にはちょっとなりませんが・・・・。
それに比較してオールラウンドなのが日本酒です。暖めて良し、冷やして良し、室温で良しと三拍子揃っています。もちろん出来ればかっての2級酒や1級酒に相当するもの、純米酒、吟上酒とそれぞれに一番ふさわしい酒を用意できるにこしたことはありません。
夕方から降りはじめた雨が涼を運んできました。酒をぬる燗で傾けることにしましょう。肴は鯵と鱚の刺身です。
酒で体が火照ってきました。それでは最後の仕上げに「ちんちんに冷えたビール」を呑みましょうか。
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