「こりずにまたまたまたまた酒の肴考」
1997.7.23
耳学問ですが、ギリシャの伝説的吟遊詩人のホメロスが海を形容する際の決まり文句の一つに、「葡萄酒色の」というフレーズがあります。これがホメロス研究者のあいだでちょっとした論議を醸したことがあったそうです。
アドリア海にしろエーゲ海にしろ、輝かしいまでの光に溢れる地中海は紺碧一色です。とうていワインレッドを連想できそうにはないのです。さまざまな推察と提言がなされましたが、最終的に詩人が群青の海原を「葡萄酒色」としたことはなんら矛盾がないと結論されました。それはギリシャ人が葡萄酒を生でのむことは少なく、しばしば水で割ったという事実からもたらされました。ギリシャの水質に含まれる成分が生の葡萄酒を藍色にするのです。こうして積年の問題は解決を見たのです。
水で割られた酒を出すと聞くと何やら怪しげな店を連想しますが、日本酒の水で割られることは、江戸時代には案外普通のことだったそうです。現在の日本酒も原酒に醸造アルコールと水を加えて製品化するのですから、水で割ってあると言えなくもないのです。ですから美味い酒の必須条件の一つに水がありますが、このことからも頷かれます。
ウイスキーの水割りを日本人は最も当たり前のように口にしていますが、聞くところによると、最も特殊な呑み方なのだそうです。本場では水割りは言うに及ばず、オンザロック(on the rocks には「破滅して」という興味深い意味もあります)でさえ教育的指導を受けるそうです(たぶん)。ストレートを舌の上といわず口の中のすべてで味わいつくし、喉で強烈な刺激を堪能するのです。チェイサーは胃と悪酔いを考慮して、いやいやながら飲むものなのです(たぶん)。
私のスタンスは、「いろいろ試した後で、自分が美味いと思うのならば、それはそれでいいじゃあないか」ですから、水割りよし、チェイサーよし(ただし私はどちらもあんまりやりませんが)、オンザロックよしです。
今日或る所から清水を汲んできました。なかなか美味い水です。生水ですの2、3日中に使い切ろうと思います。さっそく冷蔵庫で氷を作りました。今日はオンザロックで泡盛を呑もうと思います。
人々は纜をほどいて取り、自分たちもまた船へ上って、櫂の座にそれぞれつけば、
彼らに対して、燦めく眼の女神アテーネーが順風を吹きをこされる、
葡萄酒色の海原の上を、きつく吹きまき鳴りわたる西風だった。
「オデュッセイアー」岩波文庫
by BigBrother
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