「三大陸周遊記」
イブン・バットゥータ著(前嶋信次訳)角川文庫
1997.8.1
この年になってくると、小説のたぐいを読むことがいささか苦痛なってきます。正直な話、下手な小説はまったく読む気がしません。読むとすれば、文豪の名文を、それもちょっとかじる程度です。一体近頃の若手の人気作家の作品が読まれているという事態が私には不思議でなりません。
そんなこともあり小説よりもノンフィクションものや随筆を読むことが多くなってきました。最近読んだものとして興味深かったのが、イブン・バットゥータ著の「三大陸周遊記」です。世界史で暗記させられる人物名ですので、記憶されている方も多いかと思います。
イブン・バットゥータはイスラム世界において1304年に生まれ1377年に没しました。23歳から50歳すぎまで大旅行をしましたが、今日我々が考える旅行とは趣とは異なります。彼は同時にイスラムの法官として翳りが見えだしたとはいえ、まったく考えもつかないほどの広大なイスラム世界を、旅して行くのです。場合によっては役人としてその土地その土地の王に出仕します。考えようによっては、たえず遠くへと赴任して行くサラリーマンのようにも思えます。
インドでは冷酷にして寛大という専制君主の見本みたいな王に仕えます。この王もイスラム教を奉じているわけですので、イスラムの法体系に拘束されるように思われるのですが、これがどうして、思いのままに人々を死刑に処するのです。イブン・バットゥータも初め恩顧を被りますが、後に不興を買い、危うく死を免れます。
ただ、イブン・バットゥータが旅行していくのはあくまでもイスラム世界であるということです。たとえ中国へやってきたとしても、そこにはイスラム世界と深い関係を有する人がたとえ少数ながらも存在し、これを頼りに行くのです。まったくもって、この頃のイスラム世界の地球規模の勢力には恐れ入る次第です。
この角川文庫の訳は原典の煩瑣な箇所を省略し、ほぼ3分の1に短縮したものだそうですが、充分にこの猛暑のさなか、一服の清涼剤たりえます。
by BigBrother
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