「長岡のすっぽん」 1997.9.19

 わかばの暖簾をくぐると、客は私一人でした。結局その日は暖簾を取り込むまで、私だけでした。ぬる燗と鯵のタタキを頼み、店主とぽつりぽつりと話を交わしました。店主は包丁をふるいながら「こんな日があってもいい。この三日ほどは忙しかったからね」続けて、「明日はすっぽんの予約で団体が来るからね」と言います。
 すっぽんは長岡でとれた天然ものだと言います。その泥臭さを抜くため、鯉の場合と同じように清洌な水に三日ほど入れておくそうです。長岡商業の近くを流れる農業用水路にけっこういるとのことです。とは言ってももともと長岡にすっぽんは棲息していませんでした。これはある人物が一時期すっぽんの養殖をし、結局採算があわないので、止めたのですが、その際に逃げ出した幾匹かが野性化したものだろうということです。
 「よく冬を越せますね」と聞くと、「成願寺温泉からの多量のお湯の排水があって、この温水の流れ込む川で越冬が可能になるのだ」という説明でした。温泉につかる猿の映像と同時に、湯治しているすっぽんが私には連想されてしまい、眉唾ものではと思えてしまってしかたがないのです。これが本当かどうかはさて置き、これを聞いた私の脳裏には、長岡中の大小さまざまな川や用水路を自由自在に徘徊するすっぽんたちの姿が浮かんでいました。
 私はいまだにすっぽんを味わったことはありません。ものの本にはすっぽん鍋やすっぽん雑炊の格別のうまさを記述しています。河豚とならんで一度は堪能したい食材ですね。

      すっぽん(鼈)
       爬虫類・カメ目・スッポン科。完全に水生のカメの一種。甲が柔らかい皮膚におおわれ、堅い甲板はない。西南日本に多く、川や池にすむ。
       甲長約15〜17p。背面は灰褐色、腹面は黄白色で、若いときには腹甲に黒っぽい班紋がある。首が非常に長く、鼻先が細長く突出し、尾が短い。繁殖期は初夏。肉が美味なのでさかんに捕獲され、浜名湖などでは養殖も行なわれている。
      (学研「原色新百科事典」より)

by BigBrother

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