「ザ・リターン・オブ・バド・パウエル」(1964)
1997.10.7
バド・パウエルの名をご存知の方は多いと思います。ジャズの世界では筆頭に上がってくる人物です。その名を知らなくとも彼のオリジナル曲「クレオパトラの夢」は耳にしたことがあるでしょう。だいぶ前になりますが、作家の村上龍氏がホスト役の日曜の夜のトーク番組のテーマ曲に使われていました。
この「ザ・シーン・チェンジズ」(1958)の1曲目が「クレオパトラの夢」です
バド・パウエルの絶頂期は40年代から50年代前半にかけてだと一般に言われています。その時期は超絶した技巧と緊張感あふれる演奏によって特徴づけられます。一方50年代後半からの晩年の演奏は大きく様変わりして行きます。
脂の乗った頃のスピード感みなぎる演奏は時として、何かに追いまわされてでもいるかのような切迫した印象をすら与えました。これに対して50年代後半は、次第にゆっくりとしたテンポの演奏が多くなるようです。ある種の開き直りのような雰囲気が感じられます。
バド・パウエルを評価する人々でさえ、この後半生の演奏については否定する人がいます。口悪い人は「指がもつれているじゃないか」と言います。確かに、正確ですばやい指さばきは次第に次第に失われていったようです。
しかし、多くの識者が指摘するように、失意の中にありながら、演奏を楽しむ姿勢が感じられます。倒れてしまいかねない所を辛うじて踏みとどまっているような危うさの放つ緊張感があります。こうした晩年のバド・パウエルの魅力を大和明氏は「生気を失いながらも生きていかねばならぬ侘しさであろうか。それとも滅びつつあるなかに、微かにうごめく美なのだろうか。淡々とした表情の中にも、晩年のパウエルだけにしか感じられぬ人生への疲れと哀歓、それに孤独感さえ感じさせる」と述べています。
この「ザ・リターン・オブ・バド・パウエル」を聞く者がどのような印象を抱くかは分かりませんが、絶頂期の演奏とまったく違っています。ゆったりとした演奏は、指がもつれていると否定されるかもしれません。むしろ私はこちらの演奏のほうに惹かれるものがあります。秋はジャズを聞くのにも最適な季節ですね。
文中の引用は大和明「ベスト・ジャズ・ベスト・アルバム」音楽之友社刊より
by BigBrother
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