高橋留美子「めぞん一刻」小学館全15巻
1997.10.24
小学館が青年層にねらいを絞って発刊されたビック・コミック・スピリッツに1980年11月の創刊号から1987年の3月にわたり連載されました。説明を要するまでもないほど、大ヒットした作品です。久しぶりに引っ張りだしたら、面白くて自動車学校に遅れてしまいました。アクがなく、それでいて作者の絵だとすぐ分かるこの作品は、いわゆる「るーみみっく・わーるど」の中でも代表作となっています。
「めぞん一刻」は、「コップのなかの嵐」の様な閉じた世界で繰り広げられるラブコメものと言っていいかとも思います。連載終了から10年過ぎた現在、これを読んでみてもさほど古さを感じないのは、当時の社会の出来事・流行・風俗をほとんど描き込んでいないためでしょうか。私が時代を感じたのは、共通一次試験、1985年の不景気、保父試験、くらいのものでした。ただこの3つは主人公の一人である五代くんのみならず大きな意味を持っていったのですから、やはり「めぞん一刻」も時代の子であったわけです。
「BSマンガ夜話」でこの作品が話題にされた時、いしかわじゅん氏が、結末が分かっているのに、7年間読者を引っ張っていった高橋留美子氏のうまさを褒めていました。もっとも一方で小気味よく貶してもいましたが。ファンを増やしはすれ、減らすことなく続けることができたのですから、「めぞん一刻」はやっぱりたいしたものだと思います。
丹念にさまざまなディテールがきっちり描き込まれているので、いくら見ても見飽きない作品です。どこかに一刻館を中心にした町が存在するかのようです。主人公の音無響子を始め登場人物のさまざまなしぐさを巧みに描き分ける作者の筆力には舌を巻いてしまいます。登場人物の会話もさりげないものですが、それぞれ的を得ていてピッタリはまっています。「るーみっく・わーるど」といわれる所以ですね。
結局7年間かけて、作者は五代くんと響子さんとを結婚へとゴール・インさせます。マンガとはいいながら、この二人の恋愛感情を深く掘り下げ、高めていった手際に並々ならぬものを感じます。ヒロインの思いのうちにある亡き夫への愛とそれへのこだわりがまた何とも言えぬ陰影をつけています。中村雅俊の「恋人も濡れる街角」の「愛だけがおれを惑わせる」というフレーズを思い浮べました。人の心こそおそらく最も不可解であり、それだからなおのこと最も人を惹きつけるといいます。その中でも恋というゲームが世の中で唯一真剣な遊戯として心には与えられているのでしょう。そうした人間の内面を扱っているのですから、閉ざされた世界を感じさせるのは、かえって作品のもつ主題からして、必然的であったのではないかとも思うのですが。
ラブコメである以上、笑えるところもけっこうあってなかなか楽しめます。中にはやや強引すぎるところも見受けられますが、全体として成功した作品となっています。
ちなみに、「めぞん一刻」でインターネットを検索したところ、800件以上存在していました。そのうちの3件に目を通しましたが、まったくびっくりするほどの力の入った「めぞん一刻」についてのホームページでした。この作品の分析、感想、微に入り細に入り、検討を加えていました。熱狂的なファンとはすごいと思いました。マンガ作品を読んだらぜひインターネットでそうしたホームページにアクセスしてみて下さい。
by BigBrother
[TopPage]
[New]
[BigBrother's Room]
[Book]
|