「やっぱり酒の肴考」 1997.10.26

 時雨が押し寄せる波のように過ぎて行きます。芭焦の「初しぐれ猿も小簔をほしげ也」という発句が思いだされます。晩秋の夜更け。寒さがこたえるようになりました。
 これからが旬の鱈は、あくまでも淡泊な味わいが身上です。鱈ちりや煮付けにとスタンダードな料理法で食するのも悪くはないですが、運よく新鮮な鱈の白子を手に入れることができたなら、これで一献傾けたいものです。白子と聞くと、下手物喰いの印象を抱いてしまう人もいることでしょう。あるいは男性の中には共食いという言葉すら脳裏をよぎるかもしれません。ですがいったん箸を付けさえすれば、そんな思いなど一挙に消し飛んでしまいます。
 料理法はいたってシンプルです。新鮮な白子を熱湯でさっと湯通しします。これを冷水にくぐらせ、充分に熱をとったところで、水気を切っておきます。小皿に盛りつけ、別に用意しておいた次の薬味を適宜添えるだけです。紅葉おろし、わけぎを細かく切ったもの、柚のしぼり汁、柚の皮を細かく切ったもの、あるいはおろしたもの少々。これらが鱈の生臭さをすっかり消しさってくれます。
 舌ざわりをはじめ、風味もクリームチーズとどことなく似たところもありますが、こちらの方がずっと繊細です。これがまた日本酒と絶妙なほど相性がいいときています。その濃厚にして端麗な奥深い味わいは、美味の一言に尽きます。
 手酌の徳利は燗を付けていないひや酒ですが、この一品にはかえって合います。遠雷が木霊しています。霰の立てる硬質な音が夜更けに響きはじめました。盃はまだ重なりそうです。

by BigBrother

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