「やっぱりまたまた酒の肴考」 1997.11.21

 大根役者という言葉があります。下手な俳優を貶して投げつけられる文句です。大根が生であろうが、またどのように調理しようが(別の見方をすればさまざまな調理の仕方があるということですが)、めったに食あたりしないことに、その由来があると言われています。つまり、演技が受けないという意味での当らないとをうまく結びつけたわけです。もちろんこうした大根の特徴は食材としてすばらしいことの証なのです。
 いろいろな料理があります。大根おろしを使ったさまざまなバリエーション。例えば、ナメコおろし、イクラおろし、納豆おろし、シラスおろしなど。大根のなます。大根サラダ。大根の炒めもの。切りぼし大根とこれを使った各種料理。沢庵、あさづけなど各種漬物。大根の皮のきんぴら、大根の葉を使ってのいろいろ。ただ焼大根というような調理の分野だけはないように思うのですが。
 煮物としても、例えば、おでんの具として。あるいは、ふろふき大根、ブリ大根、大根と豚肉のべっこう煮など。やっぱりこれからの寒い季節はこうした大根の煮物と熱燗の取り合わせになるでしょうか。
 簡単なようでいて奥深いのが煮物だといわれています。シンプルなふろふき大根はシンプルゆえにその極めつけとも言えます。
 まず一本の大根からこの料理に最もふさわしい部分を適当な大きさに切り分けます。ふろふきには、大根の一番うまい中央部を使います。肉のようですね。さらに面とりし、隠し包丁を入れ、昆布と御飯粒を一つまみ入れた水でことこと煮ます。御飯はべつに入れなくても構わないのですが、入れた方がしっとりと煮えます。色も白くなるような気がします。煮上がったら器に取り分け、べつに用意した柚味噌をかけてでき上がりとなるわけです。
 「ふろふき大根は淡泊すぎて」という人には大根と豚肉のべっこう煮がお薦めです。ふろふきの場合とは違って大根はどこを使おうがあるいは一本でも構いません。火の通りを均一にするために大きさをそろえておくくらいでしょうか。もちろんこれは料理の基本ですね。豚肉は豚バラ肉を使用し、ちょっと厚めに切ります。この豚バラ肉の脂身の方を下にして少なめのサラダ脂を落とした鍋でじっくり焼いて、とけだした肉の脂で今度は肉の表面全体をこんがりと焼きます。この時点で相当脂が鍋にたまっていますので、体重が気になる人はいったん鍋から肉を取りだし、これを熱湯のなかで4、5分茹でた後、水切りをしてから大根と煮るといいということです。私は構わず同じ鍋で最後まで通してしまいます。ひたひたの水に大根と肉を入れ、煮立ってから7、8分を目途にして醤油、砂糖、みりん、酒をそれぞれ5:2:2:2の割合で入れます。この後40ほど煮上げますので、この時味見ではちょっと薄いくらいがちょうどいいです。ことことと煮て柔らかくなったらでき上がりです。大根がこんなに肉といい相性だったのかと驚くほどです。
 ふろふき大根と大根と豚肉のべっこう煮、同じ大根からまったく正反対の料理ができ上がります。まるでさまざまな役柄をみごとに演じきる名優のようです。大根役者は本来優れた役者を指すべきですね。

by BigBrother

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