「それでも酒の肴考」 1997.12.12

 私が学生の頃、当時はまだ格安のアパートがずいぶんと残っていました。そうした男子学生だけのアパートで、かなり無茶なランチキ騒ぎをしたものです。例えていうなら、かまやつひろし歌うところの「我がよき友よ」の残り香が辛うじて漂っているといったところでしょうか。
 こうしたおんぼろアパートを根城に酒を呑みはじめた頃は、カラオケはめずらしいものでした。もちろんレーザー・ディスクのシステムのあろうはずはなく、曲に合わせようとすると、かえって調子をはずしてしまう始末で、そうした店に足を運ぶことはありませんでした。もっとも貧乏学生だったからなのですが。
 それでも興が乗ってくれば、歌の一つも飛び出ようというもの。ギターを弾ける学生がいれば、フォーク・ソング(吉田拓郎とかかぐや姫とか)が流れるのですが、手拍子だけのときは、しぜんと春歌になってしまいます。
 春歌はけっして上品とは言えませんが、素朴で、心を惹きつけるものがあります。不思議といやらしさはなく、大声で唱和すると、気持ちがさっぱりしたものです。もちろん、男ばかりの屈託のなさも酒宴を寛いだ雰囲気にさせていたのでしょうが。
 その頃以下のものを歌いました。例えば、「リンゴの歌」の1番をひとまず歌い、その後すかさず「リンゴの字を替えて!」との掛け声と共に歌いだす、あるいは「青い山脈」の歌詞を替える、といった替え歌版です。また、「ひとつでたほいのよさほいのほい〜」、「きのうとうちゃんと寝た時に〜」、などの古くからある春歌です。
 相の手も変わっています。先の「リンゴの歌」の替え歌では「唇寄せて〜」の後で、「うげえ〜」の奇声を発するだけですが、「汽車の窓から**だしてえ〜」と始まる春歌は一癖あり、「きゅっきゅ〜、きゅっきゅ〜」と「どんがらがっちゃ〜、どんがらがっちゃ〜」です。これが決まると何とも言えないいい心持ちになりました。
 こうした酒宴はオールド・ファッションとなりました。郷愁さえおぼえます。同名のカクテル同様華やかさのある郷愁です。正確にはこのカクテルはオールド・ファションドです。角砂糖と、オレンジとレモンのスライス、さらにチェリーがにぎやかに飾られます。ただしその味わいはほろ苦さを残します。象徴的ですね。


アダムの言葉:たとえどこであろうと、彼女のいたところ、そこがエデンだった
マーク・トウェイン「アダムとイヴの日記」旺文社文庫より
by BigBrother

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