「かまわずまた酒の肴考」 1998.2.28

 酒の席のその手の話の名手といえば、「あぐり」の登場人物のモデル、故吉行淳之介氏が筆頭に挙げられます。あくまで品格を失わぬ語り口は大家の風格を帯びていたと聞きました。
 その手の話はとうぜんのことながら、艶っぽくなってしまいます。私は世阿弥先生の衣鉢をついでいますから、華を感じさせてくれれば、話題がなんであれ頓着してはならならぬという有難い教えを墨守しています。むしろ、内容が少々色にいでにけりになったほうが好きですね。
 もちろん、艶のある話はその手の話の専売特許ではありません。哲学こそは艶やかな話題を取り上げていたのです。今では想像もつかないことですが。
 その好例がプラトン大先生の「シンポジオン」です。これはその名もずばり酒宴という意味だそうです。この著作は哲学というよりも、戯曲と言った方がいいような体裁で、実在の人物があるテーマをめぐって対話するものです。ここではソクラテスをはじめとした登場人物がさまざまな愛のかたちを語り合っています。もちろん酒を酌み交わしながらです。この「シンポジオン」の艶っぽさは、私の好む艶っぽさとはかなりかけ離れていますけれども、わるくないですね。
 「酒中に真あり」という言葉があるそうです。酒と真理を追求する哲学とは案外近い関係なのかも知れません。酒にしたたかに酔いながらも、ときには高踏派を気取るのも一興ですね。

by BigBrother

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