ぼくのオンリィ・イエスタディ「80年代思いだすままに」 その10
村上春樹
1998.3.1
ビデオデッキがまだエベレストくらいの高嶺の花だった頃、新潟の鳥屋野潟近くで面白いアルバイトをしました。1986年3月のことです。会社名は忘れましたが、主に旅館やホテルにビデオテープを貸し出すのを仕事にしていました。ビデオにはお約束通りアダルトものが入っていました。むしろこちらが多かったですね。レンタルビデオ店のはしりでした。さらに再生だけのビデオデッキも貸し出していました。商品名は「ビデオ小僧」です。
アルバイトの内容は、主に湯沢や苗場の旅館や民宿に貸し出していたビデオテープとビデオデッキを引き取りに出かけたり、回収したビデオテープの簡単な確認などでした。
仕事が予定よりも早く片付いたので、そうしたビデオテープの一本を正社員の方と見ていた時のことです。もちろんアダルトビデオでした。出演の女性が自己紹介で「村上春樹なんか好きですけど」の一言に理由もなく感心しました。現在も根強い人気の村上春樹さんは、その頃それまでの作品がほとんど文庫化されていたこともあって、人気の高い若手作家でした。
80年代の気分というものを現在語るとしたら、村上春樹さん一連の小説世界は恰好の例となる気がします。もちろん、そうじゃないと反対する人もいると思いますが。その中・長編小説の発表は1979年の「風の歌を聴け」、1980年の「1973年のピンボール」、1982年の「羊をめぐる冒険」、1985年の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」、1987年の「ノルウエーの森」、1988年の「ダンス・ダンス・ダンス」ということになっています。多くの短編やエッセイや翻訳もありますが、これはひとまず置いておきましょう。
村上春樹さんの小説の魅力は、登場人物たちの傷つきやすい繊細さを隠すための斜に構えたポーズ、都会的な人間関係、洗練された会話もさることながら、登場人物たちが、時代、社会、人間関係等々に実に醒めた意識を抱き、さらに一定の距離を保ちながらも、誠実に人生を切り抜けて行く姿勢にあったような気がします。もちろんこれは個人的な見解であって、違うという指摘もあると思いますが。
1988年の「ダンス・ダンス・ダンス」を境にして、こうした姿勢は大きく変ったような気がします。といっても、これ以降はほとんど読んでいないのですが。この作品は「羊をめぐる冒険」で完結したと思われていた一連の作品に続く形をとっています。何事に対しても冷静な姿勢を崩さなかった主人公は、積極的に対象に関わり、たとえ事態が見えなくなろうと、巻きこまれることを厭いません。もちろん以前からこうした傾向はあったとも言えますが。
それまでの作風が気に入っていたので、ベストセラーになった前作の「ノルウエーの森」にもやや戸惑いを感じましたが、「まあこういう場合もあるだろう」と、納得していまし。しかし、この「ダンス・ダンス・ダンス」の雰囲気はさらに大きく変り、ぼくにとっては話さえも分かりにくいものでした。これを最後にぼくは村上春樹さんの作品を読まなくなりました。ですから、本当のところその後の作品は知らないので、これまで言ってきたのはかなり適当なのですが。
ぼくの知り合いには村上春樹さんのファンがけっこういます。女性ファンが多いようです。村上春樹さんの作品を読みはじめた頃は、女性との共通の話題になればなどというスケベ心もありましたね。
by BigBrother
[TopPage]
[New]
[BigBrother's Room]
[OnlyYes80]
|