「かまわずまたまたまた酒の肴考」
1998.3.8
葛飾柴又といえば「フーテンの寅さん」です。「寅さんが必ず帰っていく団子屋とらやのモデルは、どこの店かな」と歩いていると、川魚料理の看板がけっこう目に入ります川魚が格別好きだというわけではないのですが、鯉の洗と聞くと、思わず知らず暖簾をくぐってしまいます。この繊細な肴には日本酒がよく合います。
鯉は泥臭いというイメージがあります。鯉の代表的な料理が鯉濃なのも味噌が生臭さと泥臭さを消してくれるからでしょう。もっとも、池からあげてすぐには料理せず、生簀の清洌な水の中で泥をはかせるために二三日程泳がせておくのですが。
山あいの村に育った私にとって、鯉は馴染み深い魚でした。もちろん、口にできるのは特別な時だけでしたが。
うまい鯉は堤(つつみ)と呼ばれる大きな池に放されていました。これは夏場の水不足に備え、いざという時に広がる棚田へ給水するためのものです。ですから堤は棚田を見下ろす高い位置にあります。そうした所はゆったりとした空間が取れないですから、堤は縁から急に落ちこんでゆく深いスリ鉢状となって、少しでも多くの水を蓄えることができるようになっています。掬って飲めるような水を湛える堤の全体像を見るために、水源の始まるところまで登ると、永遠を凝視する瞳が現われます。生命の誕生は水たまりが細胞へと大変化を遂げたことがその始まりだと聞いたことがあります。山中の青々とした水面を見ると、ひそやかな息づかいが響いてくるようでした。水が命の源と言われるのももっともだと思いもしました。
by BigBrother
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