ジェームズ・ヒルトン「失われた地平線」新潮文庫 1998.5.13

失われた地平線  「チップス先生さようなら」の作者といえば、ピンとくるかもしれません。学校の課題読書で読まされたという人々も多いかと思います。

 内容を一言で要約するなら、ユートピア物語ということになるでしょうか。ユートピアといっても、この小説の舞台となる「シャングリ・ラ」は長寿に恵まれた人々のエピクロスの園のようなところで、思いのほか慎ましい理想郷です。ただエピクロスの園がそうであったように、一方で終末観が色濃く漂っていますが。

       そして、なによりも貴重なことは、あなたが「時」を獲得なされるということですぞ。よろしいか、あなたがた西洋の国々が追求すればするほど見失ってしまっている、あの得がたく貴重な贈物を、なのですぞ。「失われた地平線」より

 派手さはないですが、不思議な面白さがあります。皮肉は辛辣なのですが、さりげなくなされているため、そのまま読み過ごしてしまいますが、読了後にいろいろと考えさせられます。まるでオブラートに包んだ劇薬をそれと気づかず飲み込んでしまったかのように。たぶん小説の技法としてはおそらくかなり緻密な伏線、構成がなされているのだと思います。

 膝を叩いて納得した一つに、看板で時折見かける「シャングリ・ラ」がこの小説に由来しているのだと分かった点です。久しぶりに勉強しました。

by BigBrother

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