諸星大二郎「妖怪ハンター」 集英社  1998.9.22
諸星大二郎「妖怪ハンター」 集英社

 現在も集英社発行の成年誌に、間隔をおいて描き継がれている「妖怪ハンター」は、かって少年ジャンプに連載されました。これらに一編を加えて、一冊の短編集となっています。現在でもこの作品群は諸星大二郎「海竜祭の夜=妖怪ハンター=」集英社に、その後描かれた妖怪ハンターのシリーズとともに収録されています。ただ「死人帰り」は作品に対する作者の不満により、未収録になっています。おそらく今だに再録はされていないのではないでしょうか。

 この作品集の中で好きなのは、「赤いくちびる」と「生命の木」です。

 「赤いくちびる」は、人間の心の奥底の暗部をうまく取り入れることによって、この手の陳腐になりがちな話に深みを与えています。

 「生命の木」では聖書と隠れキリシタンを道具立てにしながら、巧みに作品を仕上げています。最後から3ページ目の1枚をそっくり使った画面は、作者の狙い通りその効果を十二分に上げています。読者は感動を覚えずにはいられません。この「生命の木」はこの短編集の中での最も高い完成度を持つと思います。

 この「生命の木」を読むと、大学の頃の或るアルバイトの体験を思い出します。私は某食品製造会社で働くことになりました。ここには私の他におなじように働くために人各地から集まってきていました。就労に先立って検便が行なわれました。この検便からたいした病原菌ではないのですが、すでにその頃国内ではめったに罹るはずのない伝染性の菌が見いだされたのです。

 保健所による消毒と検査が2時間ほど行なわれました。感染源を確定するために、保菌者から事情を聞いたそうです。この人物は青森の戸来村出身でした。ここへ外国からの観光客が訪れていたそうです。何かのはずみで、感染したのだろうということでした。このとき件の戸来村にキリストの伝説があることを知ったのです。

 それはまったく驚くべきはなしです。実はキリストは日本に逃れ、子孫まで残して天命を全うしたというのです。十字架で処刑されたのも、むろん替え玉だったのだというですが。戸来の名もキリストの民族の名のヘブライから由来しているのだし、ヘブライ語の歌も伝承されているらしいのです。現地にはキリストの墓もあるのだと聞きましたが、こには思わず眉に唾を塗ってしまいました。

 キリスト云々は別にしても、ヘブライ人と何らかの関係はあるような気がします。とにかくこのおかげで、東北の一地方にしては戸来にはけっこうの外国人観光客があったそうです。

 「生命の木」を読むたびにこの話を思い出すので、一層感慨深いものがあります。もちろん現在では衛生面も万全で、かってのような事態は起きるべくもないでしょうが。

by BigBrother


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