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ウェスト・コーストの時代

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CHET BAKER SINGS

 モダンジャズの歴史の流れの中で、確かにウェスト・コースト・ジャズは本流ではないようだ。けれども、ともすれば辛辣な記述が目につくのはなぜだろう。批評のコツは、「誉めるよりも、いかに貶すかにある」らしいから、一世を風靡したウェスト・コースト・ジャズを「あのころはジャズに対する理解がてんでなっていなかった」って言えば安全パイってところなのかな。

 ウェスト・コーストにジャズが盛んになったのは、不景気だったアメリカのなかで羽振りの良いハリウッドにジャズマンたちが集まったからだ。ジャズマンがハリウッド映画のBGMの演奏をしたからといっても、ジャズに劇的な変化は起こらなかったろうけれど、やっぱり、ジャズの演奏のやり方・考え方に影響を与えたと思う。効果的な音楽とは何ぞやってね。それに西海岸の晴れやかな気候も影響しているって言われてるしね。

 1950年代のハリウッドは古き良き時代の終わりも終わりなのだけれど、それこそ最後の光芒を放っていた。表面上は大作が封切られ、栄華はいつ果てるとも知れなかったそうだが、終りは間近に迫っていたんだ。ハリウッドの赤狩りの嵐よりもある意味では深刻なのだが、テレビの普及が映画の都を脅かしていたそうだ。

 ウェスト・コースト・ジャズの代表者、チェット・ベイカーにしろスタン・ゲッツにしろ、一聴すると、洗練された知的で軽やかな印象を受ける。でも、晴れやかな表情はあくまでも仮面であって、隠された顔が存在するように思える。彼らの名演にはその顔がちらちらとのぞく。むしろ、ヒミツめいた隠微さが魅力になっているような気がする。ニュー・ヨークをはじめとするイースト・コーストでも影の部分は同じ様にあっただろうけれど、ハードボイルドの巨匠たちが、ウェスト・コーストを舞台にしているのも興味深いね。


タグ:ジャズ

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