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豊田有恒「あなたもSF作家になれるわけではない」徳間文庫

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 この作品はSF小説ではありませんし、SF小説創作入門でもありません。著書のSF作家として歩みを綴ったものと言った方がいいでしょう。おのずと、舞台裏をのぞかせてくれる貴重な証言に満ちています。下世話に言えば、内輪話を聞く面白さがあります。
 
 手にした動機は1969年に雑誌「SFマガジン」で匿名座談会形式でSF作家を批判したいわゆる覆面座談会事件にふれられていると著作だということ。野次馬根性からです。面白ですね、ごたごたは。さらに儲けものだったのは、かって手塚プロの一員だった著者がその手塚プロをやめることになったいわくのW3事件の顛末も述べられていたこと。

 イニシャルの人物をあれこれ推測するスケベ根性丸出しののぞき趣味を満足させてくれ、何とも興味津々です。
 もちろん、こうしたところを除いても、先に書いたように貴重な資料となっていることは間違いありません。
 
 この文庫の第4章「翻訳の時代」230ページに英語教師だった頃の夏目漱石が学生に「Ilove you」を「月がとっても青いな」と訳すんだと言ったエピソードが紹介されています。
 
 私は初めて耳にする話だったので、「さて、出典は?」と、さっそくインターネットで検索すると、けっこうあります。ただ出典に言及しているものってなかなかないんですね。
 その中で見つけたのは、「大学生のための情報検索術 Blog」の『漱石の「アイ・ラブ・ユー」』の記事。このエピソードを取り上げた文章を調べ上げています。それによれば、

2007年3月18日(日)付けの『読売新聞』朝刊のエッセイ欄「よむサラダ」に
脳科学者・茂木健一郎氏の「赤シャツ」

佐藤健志氏の評論、『未来喪失』(東洋経済新報社、2001年12月、p.168)

2007年1月26日付けの『神戸新聞』の随想「正平調」

小田島雄志『珈琲店のシェイクスピア』(晶文社、1978年9月)

があるそうです。

 そして、この「珈琲店のシェイクスピア」の中で、対談相手の劇作家つかこうへい氏があのエピソードを語っているとされますが、出典は分からないそうです。

 豊田有恒「あなたも~」は1976年から79年にかけて「奇想天外」という雑誌に連載されているので、もしかすると、活字になったのはこちらの方が早いかもしれません。
 「珈琲店の~」の対談が行われたのはいつなのか、該当する「奇想天外」の発売はいつなのかがはっきり分かれば、もっとあれこれ想像をめぐらすことができるのですが。

 さらに、漱石本人が残したメモとして、

「漱石文庫」に残された漱石のメモ書きの中に、ジョージ・メレディスというイギリスの小説家の作品を取り上げて、「"I love you,Signora Laura."―Vittoria p.113.此I love you ハ日本ニナキformulaナリ」と記した一節

があるとのことです。

 結局、出典は明らかでないというのが現状とのことです。

 この漱石のエピソードに加え、二葉亭四迷が「死んでもいい」と訳したというエピソードがあることをネット検索で知りました。先のエピソードと対にした記事もネット上には流れています。
 かなり、マユツバになってきましたね。


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