エリア0258
新潟県長岡市の情報

プロフィール

タグ一覧

コンテンツ

QRコード

  • 携帯電話での閲覧に活用下さい!

記事一覧

トップ > BB > 本・長岡の古書

半村良「雨やどり」文春文庫

ファイル 505-1.jpg

 同著者の「新宿馬鹿物語」文春文庫を読み、機会があったら読もうと思っていた一冊。

 「新宿馬鹿物語」は連作を意図して書かれたものらしいですが、こちらは当初からは明確な意図はなかったようで、巻頭の「おさせ伝説」は単独として読めば、それなりの作品なのですが、どうしても他との関連で見てしまうし、しかも、「新宿馬鹿物語」を先に読んでいる身としては、これがどうも引っかかってしまう。調和を欠いているというか、不自然な作品という印象がぬぐい切れません。
 
 もちろん、それぞれ単独の作品としてみれば、読み応えのあるものばかり。新宿の飲み屋街の人々が織りなす人間模様が見事に描かれている作品です。連作するくらいですから、愛着はただならぬものがあるらしく、著者の分身と思われる人物を登場させています。それより、著者自身が登場していると言った方が適切でしょうか。

 ちなみに表題作の「雨やどり」は直木賞受賞作品です。


半村良「石の血脈」角川文庫

ファイル 473-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 半村良の作品を全部読んだわけではないのですが、それでもあえて、これを代表作と呼ぶことに躊躇はありません。

 アトランティス、吸血鬼伝説、人狼伝説等々、多くの荒唐無稽な伝説の類を投げ入れて、過去から現在を世界史的な規模でつなぎ合わせて、途方もない物語に仕上げています。

 半村良はいくつかの短編を発表したのち、休止状態をしばらくつづけ、その後、この作品により流行作家としてめまぐるしい活動を再開させました。

 文庫で560ページを超える長編ですが、とにかく面白い。正確には処女作とは呼べませんし、筆力はもちろんベテランの域に達するどころかはるかに凌いでいる印象ですが、それでいて、どこか初々しさが感じられます。


半村良「女神伝説」集英社文庫

ファイル 457-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 著者は1971年の「石の血脈」でSF伝奇ものなる分野を開拓し、その後流行作家として数々の作品を発表。SFにとどまらない幅広い分野で活躍。こちらのほうでは1975年に直木賞。2002年逝去。

 日常生活中に、非日常的な事象をさほど違和感なく描きこむ筆力。登場人物の巧みな造形。どんでん返しに次ぐ、どんでん返し。ユーモアもほのかに抑制のきいた風刺。著者のSFものをすべて読んだわけではないですけれど、こうした特徴があるかと思います。

 この「女神伝説」もそうした特徴をもった一冊。自分に釣り合いのとれないほど素晴らしい女性、ただしめちゃめちゃ嫉妬深い、から愛されたら男はどうする、ってことなんでしょうけれど、彼女いない歴ウン十年の私だったら、他の女性には目もくれないってとこでしょうけれどね。

 こうしたテーマを巧みに料理して、最後まで一気に読ませる腕前はすごいですね。
 
 


「虫の宇宙誌」 奥本大三郎 集英社文庫

ファイル 449-1.jpg

 虫から広がってゆく豊富な話題に満ちた一冊。著者のトンボとりの熱中の記述には、こちらも捕虫網を持って、鬼ヤンマや銀ヤンマを追いかけまわした記憶が浮かんできました。

 著者はコレクターなんですよね。そこが前回の「ロン先生の虫眼鏡」の著者とは大いに違うところで、ロン先生はナチュラリストというのでしょうかね。ロン先生が標本への興味がある日突然一変し、庭先ですべて燃やすという印象的な場面があります。コレクターの呪縛から自由になれたことにうらやましさを感じますね。どちらかというと、私も蒐集癖が強いほうなので。

 「虫の宇宙誌」の著者が自然に対して無理解だと言っているわけではありません。むしろ、コレクターとしての観点から、自然や虫たちのことを深く考えているといえます。


ロン先生の虫眼鏡全3巻 光瀬龍 徳間文庫

ファイル 416-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 光瀬龍は1999年に亡くなられたSF小説家です。私になじみが深かったのが、「夕映え作戦」。NHKの同題名の少年ドラマの原作にもなりました。日本SF草創期の担い手の一人であり、東洋的無常感漂う壮大なスケールの作品を描く手腕に定評の作家でした。

 この作品はSF作品ではなく、自然に造詣の深い作者の物語的な面白さもある随筆です。少年誌で同名まんがの原作にもなっているので、題名を聞いたことのある人も多いかと思います。

 過去や現在の東京、鎌倉、自然豊かな各地を舞台にして、動植物、人間、社会を語って興味尽きせぬ作品となっています。


広瀬正「マイナスゼロ」集英社文庫

ファイル 304-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 SF作家広瀬正さんの「マイナスゼロ」(7月下旬刊)が復刊されました。広瀬さんは1972年に47歳でなくなりました。現在日本SFの記念碑的作品とされていますが、生前作品に対する評価は低く、二度直木賞候補になりながらも、賞をのがした不遇の作家でした。ちなみに、ただ一人推した選考委員が司馬遼太郎。その後、作品自体も長らく品切れ状態でしたので、残念ながら、知名度も低いかもしれません。

 作品は緻密。ディテールを丹念に描くことで、作品世界のリアルさを作り出すタイプです。この「マイナスゼロ」は昭和初期から、昭和30年代後半までが舞台です。「三丁目の夕日」に代表される昨今の昭和ブームの元祖のような作品で、といっても30年代後半は作品発表からすればほんの数年前で、タイムラグはないと言っていいほどなのですが、平成の今からすれば、ノスタルジックな趣があります。むしろ、このノスタルジックな趣は作品の本質といってよいでしょう。

 内容はタイムマシンもの。作者はこの作品に限らず、時間を扱った作品が多いです。といっても、10年ほどの作家活動による作品は多いとは言えません。この「マイナスゼロ」は集英社文庫版広瀬小説全集全6巻のうちの第1巻。今後集英社は同様品切れだった広瀬作品を月ごとに刊行し、12月に完了する予定です。

 最後に。どの作品をとっても面白さ抜群です。特に「マイナスゼロ」は広瀬作品の代表作、最高傑作とされています。


「竜の眠る浜辺」山田正紀

ファイル 237-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。

 ということで、私のマイブームのきっかけとなった一冊。
今から20年以上前に同著者の「神々の埋葬」を読んだ折は、おもしろかったものの、あまりに設定が荒唐無稽すぎて、その一冊きりになってしまいましたが、表題と表紙の絵に魅かれ購入。読みだすや、時を忘れ一気に読んでしまいました。

 突然湘南の一地域だけが恐竜の生息した時代になるという設定。むしろ、ファンタジーと言ったほうがよいでしょうか。それぞれの問題を抱える登場人物たちが、この超常現象を通じて心を通わせ、連帯を強めていく過程が、情感をもって描かれています。

 ところで、現在この作品は品切れ。私は大型古本店で購入。先の平井和正作品を含め、1970年代や1980年代のSF作品が入手しづらくなっています。ちなみに、同著者の「最後の敵」という傑作SFも品切れ状態。もちろん、こうした状況はSFに限らず、他の分野でも同様でしょうが、文庫がたちまち品切れ状態になってしまうのは何ともさみしい限りですね。


「サイボーグ・ブルース」平井和正

ファイル 236-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。
ということで、平井和正「サイボーグ・ブルース」は「8マン」を意識して書かれたものだそうです。ご存じでしょうが、氏は「8マン」の原作者。「なんだ、マンガの延長か」って思われたあなた、そんなもんじゃないです。すごいです。これまた一級のエンターテイメントでありながら、とにかく深い。登場人物たちのすさまじい情念が見事に作品化されています。
 未完(巻末星新一氏の解説で知りました。私は全く気付きませんでした)ですが、未完であることを感じさせないほどの統一感があります。


「アンドロイドお雪」平井和正

ファイル 235-1.jpg

 最近のマイブームはSF小説を読むことです。
 平井和正と言えば、「幻魔大戦」「ウルフガイシリーズ」。題名くらいだけは知っていましたが、自分の読書範囲とは重ならないと思い、読まずにいました。
 ですが、このところ80年代の日本のSFを読むようになっていたので、古本屋でなにげに「アンドロイドお雪」(105円)を見つけ、読みだすや、その面白さに驚嘆しました。1969年に書かれた作品とは思えないほど新鮮でした。評判の高い翻訳ものと言われても、私は頭から鵜呑みにして信じてしまうほどです。さらに分類すれば、SFハードボイルドという分野になるでしょうか。
 サイボーグ猫のダイの存在も秀逸で作品に深みを与えています。再読すると、どれほど作者が巧妙に伏線が張り巡らしていたかにも驚かされます。これほどのエンタティメントを日本人が書けるなんてって思いました。平井和正という作家について、自分が勝手に抱いていたイメージがどれほど貧弱なものだったかが思い知らされました。とにかく驚愕の一冊です。
 ところで、「なんでお雪なんだろう」このアンドロイドと関係の深い登場人物の名前が野坂アキ。野坂アキと雪、野坂アキとユキ、野坂アキユキ、野坂昭如ってシャレなのかなーなんて。それと、この表紙の絵。よく見たらお雪ではないんですよね。


高橋鉄「浮世絵=その秘められた一面」河出文庫

ファイル 254-1.jpg 日本が世界に誇れる芸術に浮世絵があります。喜多川歌麿、安藤広重、葛飾北斎、東洲斎写楽などの名前が、お茶漬けの記憶とともに浮かんできます。現代のわれわれにとってまだまだ疎遠となったわけではない江戸時代の浮世絵ですが、その実浮世絵についての正確な知識があるかというと、私を含めて多くの人が心もとないのではないでしょうか。

 この「浮世絵」は浮世絵とその成立を可能にした社会背景、当時の人々にいかに歓迎され、あるいは為政者からいかに扱われたかが分かりやすく、しかもおもしろく描かれています。これが抜群におもしろいのは浮世絵の歴史を春画の側面から考察しているからです。

 春画と聞くと、顔をしかめる人もいるかもしれませんが、筆者によれば、「春画を描くためには、すぐれた技量と、独創的な観察力と、人間に対する理解と批判が必要」であって、決して片手間にできるもではないのだそうです。こうした観点から、浮世絵絵師たちの興味深い悪戦苦闘の芸術史が語られた一冊です。

by BigBrother


タグ:高橋鉄 浮世絵 河出文庫